「オリンピックストカン(7/23・8/8)」
調査結果報告
公開日:2021年12月28日
2021年東京オリンピック開会式(7/23)及び閉会式(8/8)当日の深夜、ARCHのメンバー及び協力者が少人数のチームを結成し、都内の主要駅周辺で過ごすホームレスの方々の人口調査を行いました。以下、その集計結果について公表いたします。
目次
◆「オリンピックストカン」についてー実施に至った背景と目的
ARCHでは2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症の流行により、市民参加型のホームレス人口調査(東京ストリートカウント、略称ストカン)の実施が困難になりました。そうした中で今夏、東京はオリンピックという大きなイベントの開催を迎えました。ARCHとしては、オリンピック開催下におけるホームレスの人の実態把握が必要であり、また、一人の市民としてホームレスの人を調査するだけでなく見守ることができないかと考えました。
そこで、今回ARCHのメンバー及び協力者によって少人数のチームを結成し、オリンピック開会式及び閉会式当日の終電後の深夜に、主要駅周辺で過ごすホームレスの方々の人口調査を行いました。
◆実施概要
本調査では、山手線の主要6駅(池袋・新宿・渋谷・上野・秋葉原・東京)を対象に、駅を中心とした調査範囲を設定し、少人数 のチームで終電後の調査を行いました。調査範囲は、駅前ロータリーや地下の出入口、駅前面の道路などが含まれるように設定しました。
実施概要は以下の通りです。
※感染対策として、調査者間および野宿されている方とのソーシャルディスタンス(5m以内には近づかない)やマスク着用などを徹底して調査を行いました。
オリンピックストカンの調査風景(ARCHメンバーにより撮影)
調査当夜はオリンピックの開会式および閉会式が行われた夜であり、東京23区内の主要エリアには厳重な警備体制が敷かれていました。今までのストリートカウント調査とは大きく異なる状況で、私たちにとっても初めての経験でした。そして東京の街がいつもと異なる雰囲気の中でも、変わらず寝ている方がいることを改めて実感しました。
◆調査結果
※本調査は従来の東京ストリートカウントで行っていた区全体の網羅的な調査ではなく、主要駅の周辺部に限定した調査であるため、「駅」単位の結果として集計しました。
※一般に公開される東京都や厚生労働省の行政調査とは調査方法が異なります。
※7月23日と8月8日で一部調査した範囲が異なります。今回は同一の範囲で確認されたホームレスの方の人数を調査結果としました。実際には、さらに7月23日の調査では池袋駅周辺で24名、渋谷駅周辺で13名を確認しており、6駅全体では417名の野宿状態にある方を確認しました。
※上野駅周辺の調査結果には、一部上野公園も含まれます。
調査の結果、主要駅周辺では、7月23日調査では380名、8月8日調査では322名が就寝、もしくは移動しておられました。6駅全体で見た場合は、7月23日が8月8日よりも約60名多い結果となりました。今回の調査は、少人数で限定的な範囲を回るものではありましたが、オリンピック期間中の深夜の東京において、これだけの方々が野宿状態にあることが明らかになりました。
◆参加メンバーの感想
最後に、今回の調査に参加したメンバーの感想・メッセージを集めました。調査の様子や感じたことなど、ありのままの声を届けたいと思い、掲載しております。お時間のある際に、是非ご一読ください。
「今回のストカン調査は、コロナ禍での調査という事もあり以前と比較して大きく形を変えることとなりましたが、自分たちの目で実際の路上の様子を見て多くのホームレスの人が生活をされていることに強い衝撃を感じました。調査当日は東京都内の警備が厳重だったこともあり、今まで感じたことのないような雰囲気の中でまちを歩くことになりましたが、その点も大変印象に残りました。しかし、オリンピックという大きなイベントの有る無しに関係なくホームレスの人には彼ら自身の生活があり、その事実を1人の市民としてしっかりと心に刻まなければいけないと思いました。」
「私は今回のストカンに両日参加しました。オリンピック開会から閉会まで2週間ほどの短いスパンでの調査でしたが、2晩とも同じ場所で寝ている方もいれば、場所を移動している方や1晩しか出会わなかった方がいたことが印象的であり、野宿状態にある方の人数や寝場所は日々変化しているということを実感しました。また、今回は開会・閉会の式典をテレビで見た直後に調査に行き、その華やかなオリンピックと、多くの方々が路上生活状態にあるということが東京という一つの都市の中で同時に起こっていることに、なんとも言えない気持ちになりました。」
「これまで参加してきたストリートカウントと比較して、コロナ禍で夜の東京が非常に静かだったこと、これまで見てきた景色とは異なっていたことが印象的でした。特に路上生活に対する規制は今まで以上に強く、いつもいらっしゃった場所にホームレスの方々がいない、いつも置いてあった荷物は排除・移動させられている、などの変化を感じました。世界中の人が盛り上がりをみせたオリンピックの陰で、居場所を奪われている方々がたくさんいらっしゃることを痛感しました。」
「私が深夜の渋谷駅や新宿駅、池袋駅周辺を歩いたのは、今回のオリンピック期間中のストリートカウントが初めてでした。自粛期間中でしたが駅前には人出が多く、警備の方も何人かついていたのを覚えています。いつもとは異なるそんな緊張感のある中でも、野宿をされている方はいましたが、以前は何もなかったと聞く場所が閉鎖され、近づけなくなっているところもあり、野宿者の場所が制限されているような印象を受けました。オリンピックという社会的イベントのおかげで、活気づいているように思えた東京を、別の角度から考えされられた一夜でした。」
「オリンピック期間中ともあり、夜の街には警察官や警備員が多く、また大会関係者と思われるような外国人の方もいて少し緊張感のある調査だったと思います。久しぶりのストカン調査だったこともあり、特に人出の多い駅周りを歩く際は緊張していました。以前の調査した場所の風景が大きく様変わりしていることに驚きつつ、またこの場所で生活している人もまた大きく入れ替わっているのではないかと思いながら参加しました。ARCHの皆さんが手際良くルートを決めて見回るのについていきながら、皆さんが粘り強く継続して調査して来られたことを、強く感じることができました。今回の調査で一緒に歩けたことに感謝します。ありがとうございました。」
◆(参考)今夏の2つのストリートカウントの結果
ARCHでは今夏、オリンピックストカンと同時期に、「私のまちストカン」と題した市民参加型の夜間ホームレス人口調査を実施しました。上図は、8月8日深夜に調査を行った「オリンピックストカン」と、8月6日・7日深夜に調査をおこなった「私のまちストカン」の東京23区内の結果を、1枚の地図に統合したものです。
「私のまちで東京ストリートカウント2021夏-本当に大切なものを探しに行く」 結果報告
「私のまちストカン」は、少人数のメンバーで主要駅周辺を調査した「オリンピックストカン」とは異なり、参加くださった105名の市民の方々が、それぞれ自分の住んでいる地元の駅や公園を歩く形で調査を行いました。本企画では、首都圏を中心とした全国からの参加者が、2晩を通じて294名の野宿している方に出会い、うち都内23区では206名の方に出会いました。なおオリンピックストカンと私のまちストカンでは一部調査範囲が重なっており、データを精査した結果、両調査で66名のホームレスの方が重複して含められていると見られます。
以上の結果から、私たちが閉会式ころに都内23区で出会ったホームレスの方々は、462名となりました。この人数は、調査方法や範囲の制限ゆえに、ホームレス人口の全数を捉える性質のものでは全くありません。ですが、緊急事態宣言下でのオリンピック開催という社会の混乱と分断の中で、深夜の路上に取り残されている人々を心配した市民が自らの足で街を歩き、出会うことができたのが462名、という結果になっています。